オンパットロは肝臓においてトランスサイレチン(TTR)の産生を抑制する薬剤です。
トランスサイレチン(TTR)は主に肝細胞で産生されるタンパク質で、サイロキシン(T4)と結合してその運搬に関与するほか、レチノール結合タンパク質を介してビタミンAの輸送に関与しています。TTRは通常は四量体を形成して血中に存在し、野生型TTRの四量体は非常に安定な構造をしているため容易には解離しません。しかし、TTR遺伝子が変異している場合は産生されたTTRタンパク質の四量体形成が不安定になり、単量体に解離します。単量体となったTTRがミスフォールディングによってアミロイド線維化し、アミロイド沈着を引き起こします。
オンパットロはRNAi※というプロセスを利用して肝臓におけるTTRタンパク質の産生を抑制する薬剤です。
オンパットロはRNAiによりトランスサイレチン(TTR)の産生を特異的に阻害する世界で初めてのsiRNA製剤です。1-7
オンパットロは、パチシラン(野生型および変異型TTR mRNAを標的とする合成二本鎖siRNA)を、TTRタンパク質の主な産生源である肝臓へ送達するために開発された脂質ナノ粒子(Lipid Nanoparticle:LNP)製剤です。オンパットロは、肝細胞におけるTTR mRNAの特異的な分解を介して野生型および変異型TTRタンパク質の産生を阻害することで、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー患者におけるアミロイドの組織沈着を抑制します。
<オンパットロの肝細胞への取り込みからTTRタンパク質合成阻害までの流れ>
- 静脈内投与されたオンパットロは、大量の血液が潅流する肝臓内に分布、蓄積します。
- 肝臓への分布過程において、LNPのPEG(Polyethylene Glycol)化脂質の大部分が外れ、内因性アポリポタンパク質E(ApoE)が結合します。
- 肝細胞に発現する低比重リポタンパク質受容体(Low Density Lipoprotein Receptor:LDLR)などのApoE依存的機構を介して、肝細胞内に取り込まれます。
- LNP中の正に帯電した脂質は、負に帯電したエンドソーム膜と融合します。
- その後、LNPの物理的崩壊とエンドソーム膜の不安定化により、LNP中のパチシラン(二本鎖siRNA)が細胞質内に放出されます。
- 細胞質内へ放出されたパチシランは、RISC(RNA誘導サイレンシング複合体)に結合します。
- RISCに結合した二本鎖siRNAが一本鎖となり、RISCは活性化します。
- 活性化RISCは、野生型および変異型のTTR mRNAに結合します。
- 活性化RISCがTTR mRNAを切断します。
- 活性化RISCはTTR mRNAに次々に結合し、触媒的に切断を繰り返します。
- 分解されたTTR mRNAはその機能を失い、TTRタンパク質は野生型、変異型ともに合成されなくなります。