- 司会
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- 中川 義久 先生 滋賀医科大学 循環器内科 教授
- 漆谷 真 先生 滋賀医科大学 脳神経内科 教授
- ディスカッサント(ご発言順)
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- 真田 充 先生 滋賀医科大学 脳神経内科 准教授
- 酒井 宏 先生 滋賀医科大学 循環器内科 助教
- 中野 顯 先生 彦根市立病院 副院長
トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(以下、ATTRvアミロイドーシス)*は、末梢神経障害と心障害を主体とした遺伝性の全身性アミロイドーシスである。近年、本疾患に対する薬物療法が登場し、その早期診断・早期治療の重要性はさらに高まった。本疾患は、主に脳神経内科または循環器内科で鑑別診断・治療が行われるが、全身性疾患であるため、その診療には複数の診療科や、地域における施設間での連携が重要になる。
そこで本座談会では、滋賀県で本疾患に対して施設内外で連携して診療にあたっている脳神経内科および循環器内科の医師にお集まりいただき、それぞれの立場から本疾患の早期診断のポイントや他科連携・病病連携のあり方について議論していただいた。
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- 「遺伝性ATTRアミロイドーシス」、「FAP(Familial Amyloid Polyneuropathy)」とも呼ばれています。
ATTRvアミロイドーシスの病態と鑑別の重要性
中川真田先生、まずはATTRvアミロイドーシスの病態について概要をご紹介ください。
真田ATTRvアミロイドーシスは、トランスサイレチン(TTR)遺伝子変異に起因する遺伝性疾患です。TTR由来のアミロイド線維が末梢神経や心臓をはじめ、様々な臓器に沈着することで進行性に全身諸臓器の障害をもたらします1)。特に、末梢神経と心臓は症状が出やすい部位であり、末梢神経障害としては、感覚神経障害による温痛覚や触圧覚障害など、自律神経障害による下痢・便秘や起立性低血圧など、運動神経障害による手根管症候群や脊柱管狭窄症などを起こします。また、心障害としては、機能的・構造的変化による心室壁肥厚やストレイン低下など、刺激伝導障害による心房細動や房室ブロックなどを起こします(図1)。
本疾患では、様々なTTR遺伝子変異が報告されていますが、日本ではVal30Met(p.Val50Met)変異が最も多いことがわかっています2)。このVal30Met(p.Val50Met)変異の家系は、以前から熊本県と長野県が2大集積地とされていますが、近年では、北陸や東海、中国地方にも集積地があるといわれています。一方で、それ以外の地域(非集積地)にもVal30Met(p.Val50Met)変異やそれ以外の変異[non-Val30Met(p.Val50Met)変異]が確認されており、患者は日本全国に存在していることがわかっています3)。
中川日本におけるATTRvアミロイドーシスの患者数はどの程度だと考えられていますか。
真田約700~1,000人と推定されています。しかし、本疾患は、多様な症状を呈することから他の疾患と間違われているなど、確定診断に至っていない潜在患者がいると考えられており、実際の患者数はもっと多いと思われます。ここ滋賀県は面積、人口ともに全国のほぼ1%にあたることから“100分の1県”といわれており、少なくとも10例以上の患者がいると考えられます。
中川ATTRvアミロイドーシスの神経学的な特徴を教えてください。
真田集積地におけるATTRvアミロイドーシス[Val30Met(p.Val50Met)]は20~30歳代の若年で発症し、常染色体顕性遺伝形式の濃厚な家族歴を有します。その多くは小径線維障害による温痛覚優位の解離性感覚障害や自律神経障害を呈することが特徴です4)。それに対して非集積地におけるATTRvアミロイドーシスは、孤発かつ高齢(50歳以上)で発症し、感覚障害は全感覚低下を認め、自律神経障害は軽度であることが多いのが特徴です5)。特に非集積地における本疾患は、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)や糖尿病性ニューロパチー、薬剤性ニューロパチー(化学療法剤など)、シャルコー・マリー・トゥース病、ギラン・バレー症候群など、末梢神経障害をきたす他の疾患と類似した所見を呈することがあるため注意が必要です(表)。中でもCIDPと疑われることが多く、その鑑別は重要です。これまでにいくつかの報告があり、例えば、ATTRvアミロイドーシスと診断された150例のうち49例(32.7%)は以前に他の疾患が疑われており、その中で最も多かったものがCIDP(30例、61.2%)であったこと6)、また、ATTRvアミロイドーシスと診断された15例のうち半数以上(8例)が神経生検前にCIDPと仮診断されていたこと7)などが示されています。
このような背景の中、海外では、ATTRアミロイドーシスの診断アルゴリズムとして、末梢神経障害を含む全身症状を確認した上で、モノクローナル免疫グロブリン血症(MGUS)を鑑別し、ATTRvアミロイドーシスが疑わしい場合は遺伝学的検査でTTR遺伝子変異の有無を確認することが提唱されています1)。
ATTRvアミロイドーシスの早期診断のポイント
中川酒井先生、循環器内科の立場からみた本疾患の特徴や早期診断のポイントを教えてください。
酒井TTRのアミロイド線維が心臓に沈着して形態的かつ機能的な異常をきたす病態を“心アミロイドーシス”といいます。心アミロイドーシスを呈する病態には、ATTRvアミロイドーシス以外にも、野生型のTTRが原因で発症する野生型ATTR(ATTRwt)アミロイドーシス、異常形質細胞により産生されたモノクローナルな免疫グロブリン軽鎖が原因で発症するAL(amyloid light-chain)アミロイドーシスがあり、いずれの場合でも心電図や血液検査で異常がみられるようになります。心電図では、軸偏位や低電位、伝導障害などが典型的な所見であり、血液検査では、BNP値やトロポニン値が上昇することが特徴です。さらに、心エコーで、左室肥厚に加えて右室にも肥厚がある場合(図2)や、99mTcピロリン酸シンチグラフィによる視覚的評価法でvisual score(0~3の4段階)が2(肋骨と同等の心臓への中程度集積像)以上、定量的評価法でH/CL(heart to contra-lateral)比が1.5超(1時間後撮影)の場合は、心アミロイドーシスの可能性が高くなります8)。
中川滋賀医科大学では99mTcピロリン酸シンチグラフィによって心アミロイドーシスが検出される割合はどの程度ですか。
酒井当科で行った99mTcピロリン酸シンチグラフィの陽性者数(H/CL比>1.5)は、2019年で8例中3例、2020年で22例中12例、2021年で19例中10例であり、陽性率は約50%となっています。ただし本法では、ALアミロイドーシスが偽陽性となる場合があるので、鑑別が必要です。ALアミロイドーシスは、心障害以外にも末梢神経障害を呈するケースがあるため、ATTRvアミロイドーシスと同様に脳神経内科で遭遇することが多いアミロイドーシスです。ALアミロイドーシスはATTRアミロイドーシス(ATTRv、ATTRwt)に比べて予後不良なので、ALアミロイドーシスに特異的な免疫グロブリン遊離軽鎖のκ/λ比を測定するなどして両者を鑑別して治療方針を決定することが極めて重要になります。
ATTRvアミロイドーシス診療における他科連携の重要性
漆谷ATTRvアミロイドーシスの診断には、他科と連携して末梢神経あるいは心臓の症状をいかに早期に検出できるかがポイントだと思います。次に、そうした連携が重要であることを示した症例をご提示いただけますか。
真田循環器内科の酒井先生にご協力いただいて診断に至った70歳代男性の症例をご紹介します。2年前より下肢末梢に異常感覚を自覚され、以後、徐々に上行して手にも異常感覚を自覚されるようになりました。当院の脳神経内科を紹介受診し、診察上は四肢遠位優位の全感覚低下と感覚性失調が認められました。当科外来で行った神経伝導検査では感覚優位の高度軸索障害を認めるも、その他の異常を見つけることができなかったため、精査目的で当科入院となりました。精査の結果、神経学的な異常所見として、運動系では筋力低下、感覚系では両手首・両膝以遠全体の自覚的異常感覚と触覚・温痛覚の鈍麻、振動覚低下、位置覚低下を認めました。また、神経伝導検査にて手根管症候群(正中神経の遠位潜時延長)と下肢優位・感覚神経優位の強い軸索障害を認めました。その原因を探るために、血液検査と脊髄MRI検査を行いましたが、特定に至る明らかな異常はありませんでした。そこで、入院時からの検査所見を再評価したところ、心電図(胸部誘導で異常Q波・R波増高不良)、心関連血液マーカー(BNP、CPK、CK-MB、高感度トロポニンⅠ高値)、心エコー(左室肥大)で心アミロイドーシスを示唆する所見を認めたことから、酒井先生にご相談し、99mTcピロリン酸シンチグラフィを実施しました(図3)。その結果、視覚的評価法でvisual score 3(肋骨よりも強い心臓への高度集積像)、定量的評価法でH/CL比2.43となり、心アミロイドーシスが強く疑われたため、さらに生検でアミロイド沈着の有無を確認しました。腓腹神経生検の結果、内鞘血管周囲にコンゴーレッド染色陽性のアミロイド沈着物を確認し、最終的に遺伝学的検査でTTR遺伝子変異[Val30Met(p.Val50Met)]を検出したため、ATTRvアミロイドーシスと確定診断しました。このように、神経学的所見から病因を明らかにできなかった場合でも、心電図や心関連血液マーカーを見直し、循環器内科に相談したことで確定診断に至ったケースを経験しました。
酒井心アミロイドーシスを検出するためには、この症例のように、心電図と血液検査の結果からどこまで疑えるかが重要です。特にATTRvアミロイドーシスの心電図所見では、四肢誘導(特にⅠ誘導)の低電位や胸部誘導のV1-3 QSパターンがみられ、自動診断で前壁中隔梗塞と判定されることがあります。これらは早期診断のキーポイントといえるでしょう。そして、心エコーや99mTcピロリン酸シンチグラフィなどの画像検査まで行うことができれば診断精度はさらに高まります(図4)。
真田全身性疾患である本疾患は、単科だけでは見逃す危険性があり、他科連携が重要といえます。当科では、末梢神経障害のある患者は心電図所見を見直して異常があった場合は循環器内科に相談したり、手根管症候群のある患者は整形外科と連携してアミロイドの病理検索を依頼したりしています。
酒井ATTRvアミロイドーシスでは、硝子体混濁など眼症状を呈することが少なくないため、眼科との連携も大切です。
滋賀県における病病連携
酒井ATTRvアミロイドーシスの診療は、脳神経内科と循環器内科を中心とした他科連携が重要であることを再認識しました。それと同時に、患者が最初に受診するのは地域の基幹病院であることが多いため、基幹病院と大学病院の病病連携も重要といえます。中野先生、滋賀県での病病連携の現状について教えてください。
中野大学病院に比べて地域の基幹病院では全診療科で専門医が揃っているわけではないため、ATTRvアミロイドーシスのような全身性疾患を診療するのはハードルが高いのが現状です。よって大学病院との連携は非常に重要です。滋賀県では、ある程度顔が見える関係ができていて、大学病院の先生と電話一本で連絡がとれたり、Webを使ったミーティングを実施できたりなど、気軽に情報共有や相談がしやすい環境が整っています。
酒井例えば、基幹病院ごとに心アミロイドーシス診療の担当医を決めた上で、こまめに情報共有や相談ができるようになれば、診療のハードルは下がり、より効率的な連携がとれるようになると思います。
漆谷ATTRvアミロイドーシスの場合、どのような患者を大学病院へ紹介いただくのが良いでしょうか。
真田本疾患は、末梢神経症状と心症状が中心となりますが、その他多様な症状を呈するため、診断困難例が多いのが現状です。滋賀県のような非集積地では高齢で発症する患者が潜在していると思われますので、原因不明の末梢神経障害、特に手根管症候群を有する場合は、大学病院などの専門施設で精査することが望ましいと考えます。
酒井心アミロイドーシスを見つけ出すという観点では、特に心電図と心エコー所見が一致しない心肥大が認められた場合は紹介いただきたいと思います。また、BNP値やトロポニン値の持続的な上昇がみられる場合、手根管症候群や脊柱管狭窄症、肩腱板断裂などの既往がある場合も心アミロイドーシスを併発している場合があるので精査が必要です。消化器症状がみられ、食欲が低下したり痩せたりするような状態になると重症化していることが多いので、そうなる前に今挙げた症状・所見がある場合はご相談ください。
ATTRvアミロイドーシスの治療
紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、すべての症例が同様の結果を示すわけではありません。
中川最後に、ATTRvアミロイドーシスの治療について伺います。
酒井本疾患に対する治療法はアミロイドの形成機序により大きく4つに分けられます。肝臓で産生されたTTRは、通常四量体を形成して体内を循環していますが、遺伝的な変異があると四量体構造が不安定になり単量体に解離しやすくなります。そしてTTR単量体は、適切に折りたたまれなかったり一部が分解されたりして凝集し、アミロイド線維となって様々な臓器に沈着することで多臓器障害を引き起こします。このような機序から治療法としては、①肝臓を正常な肝臓に置換して、変異型TTRの産生を阻止する肝移植、②肝臓でTTR mRNAを選択的に分解して、変異型および野生型TTRの産生を抑制するsiRNA製剤(オンパットロ、一般名:パチシランナトリウム)、③TTRの四量体構造を安定化させ、単量体への解離を抑制するTTR四量体安定化剤、④沈着アミロイドによって引き起こされた様々な症状を緩和・軽減する対症療法があります(図5)。
中川薬物治療で経過を診ている症例をご紹介ください。
中野2016年1月に肉眼的血尿から膀胱腫瘍の疑いにより泌尿器科で生検したところアミロイドーシスと判明し、遺伝学的検査でATTRvアミロイドーシス[Thr60Ala(p.Thr80Ala)変異]と確定診断した患者をご紹介します。2016年9月から四量体安定化剤20mg/日で治療を開始し、その後、80mg/日に増量しました。末梢神経症状の悪化は抑えられ、心不全症状はあったものの利尿剤の併用で安定していましたが、オンパットロが発売され、患者の希望で2020年8月からオンパットロ投与に切り替えました。オンパットロを投与して2年弱になりますが、運動・感覚神経障害、自律神経障害、心障害(心不全、不整脈)における自覚症状の進行は認められていません。患者には、本疾患は進行性であるため、症状が悪化せず進行を抑えられているのは治療効果が出ている証だと説明しています。
真田先ほどご紹介したVal30Met(p.Val50Met)変異のATTRvアミロイドーシス患者には2021年11月からオンパットロを3週間に1回の頻度で投与しています。現在までに9回の投与を完了しており、Infusion Reactionなどの副作用は認められていません。また、現在では、オンパットロ投与前と比べて、徒手筋力検査で前脛骨筋(TA)が4+/4+から5-/5-へ改善したり、両手首と両膝以遠全体の自覚的異常感覚が軽度軽減したりなど、運動系・感覚系ともに診察上の変化があるものの、電気生理学的な検査所見に大きな変化はなく、症状の進行は抑制できていると考えています(図6)。
酒井私は新規患者にはオンパットロを最初に投与しており、先生方にご提示いただいた患者と同様に、症状の進行は抑えられています。
真田今回提示した症例はオンパットロを投与して約半年が過ぎたばかりですが、自覚的には改善している症状もあることから、神経学的な診察あるいは電気生理学的な検査を細かく行いつつ、今後長期的な効果を検証していきたいと思います。
中川アミロイド線維は何十年もかけて体内に蓄積したものなので、薬物治療の効果も長期的な視野が必要かもしれません。
中野ATTRvアミロイドーシスは治療介入できる疾患になったので、われわれ循環器内科でも神経学的所見に注意し、早期診断に寄与できるよう心がけたいと思います。
漆谷ATTRvアミロイドーシスは、指定難病に指定されている全身性アミロイドーシス(告示番号28)に含まれます。こうした指定難病を治療できる施設は限られているため、疾患啓発を行ったり、治療できる施設を増やしていったりなどして、診断から治療までがスムーズに行える体制が地域単位で広まっていくことを期待しています。
中川ATTRvアミロイドーシスは全身性疾患であるため、その診療には大学内での他科連携、地域での病病連携が必要です。早期診断のためには、まずは疑うこと、そして、疑ったときに基幹病院と大学病院の枠を超えて気軽に相談し合える関係を構築していくことが重要だと思います。
本日はありがとうございました。
内容および医師の所属・肩書等は2022年5月記事作成当時のものです。