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田原 宣広 先生 久留米大学医学部 内科学講座 心臓・血管内科部門/
久留米大学病院 循環器病センター 教授 - 南澤 匡俊 先生 信州大学医学部附属病院 循環器内科
- 遠藤 仁 先生 慶應義塾大学医学部 循環器内科 専任講師
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尾田 済太郎 先生 熊本大学大学院生命科学研究部 画像診断解析学 特任講師
(現:熊本大学病院 画像診断・治療科 准教授)
(ご発言順)
アミロイド線維の主な供給源である肝臓におけるトランスサイレチン(TTR)の産生を選択的に抑制する世界初のsiRNA*1製剤であるオンパットロ(一般名:パチシランナトリウム)が登場し、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(以下、ATTRvアミロイドーシス)*2に対する新たな治療選択肢が加わった。本疾患では、心臓にアミロイド線維が沈着して形態的・機能的な異常をきたす心アミロイドーシスが予後悪化の規定因子となることから、心アミロイドーシスの早期診断と早期治療介入が重要になる。そこで、本座談会では、循環器内科を中心としたアミロイドーシス診療のエキスパートにお集まりいただき、ATTRvアミロイドーシスの疾患概念を整理した上で、本疾患の治療ゴールを見据えた、心アミロイドーシスの早期診断の重要性やオンパットロへの期待などについて議論していただいた。
- *1
- small interfering RNA
- *2
- 「遺伝性ATTRアミロイドーシス」、「FAP(Familial Amyloid Polyneuropathy)」とも呼ばれています。
ATTRvアミロイドーシスの治療ゴール
田原ATTRvアミロイドーシスは、全身の諸臓器にTTR由来のアミロイド線維が沈着・蓄積することで、神経や心臓の機能だけでなく、身体機能も進行性に悪化する予後不良の全身性疾患です(図1A)。末梢神経障害と心障害(心不全、伝導障害)が併存すると互いに負の影響を与え合いますが、本疾患では、低栄養や末梢神経障害による筋力低下が相まって、負の影響はさらに強くあらわれると考えられます。実際にATTRvアミロイドーシス患者は心不全で致命的となるケースが多いことから、本疾患ではアミロイド線維の沈着を発端とした、この“負のスパイラル”を断つことが重要です。したがって、本疾患の治療ゴールは、原因であるTTRの産生抑制を介して、アミロイド線維の沈着による神経機能や心臓機能、身体機能の悪化を停止し、患者のQOLおよび生命予後の改善を図ることといえます(図1B)。
オンパットロは、RNA干渉の原理を利用して、肝臓におけるTTRの産生を選択的に抑制するsiRNA製剤です。トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー患者を対象にしたオンパットロの国際共同第Ⅲ相試験(APOLLO試験)1-5では、オンパットロ投与開始後3週から血清中TTRが減少し、18ヵ月間の減少率は81%(中央値)であったことが示されています。また、プラセボ群に比べてオンパットロ群で18ヵ月時点における複合神経障害スコア(mNIS+7スコア)が有意に改善しました(p<0.001、MMRM法)(表1)。さらに、握力や10m歩行速度(10-MWT)、mBMIといった身体機能や栄養状態の指標についても、プラセボ群に比べてオンパットロ群で悪化が抑制されたことが確認されています(表1)。本試験では、心アミロイドーシス集団を対象としたサブグループ解析が行われ、プラセボ群に比べてオンパットロ群で、血清中NT-proBNPの上昇や左室壁厚、グローバル長軸方向ストレイン(longitudinal strain:LS)、左室拡張終期容積といった心エコー検査所見の悪化が抑制されたことも示されています(表1)。なお、オンパットロ群では148例中94例(63.5%)に副作用が認められ、最も頻度が高かった事象はInfusion reaction(27.0%)でした。
さらに、オンパットロの長期投与による安全性と有効性を検討するグローバルオープンラベル継続投与(open-label extension:OLE)試験の中間解析結果も報告されています6。グローバルOLE試験開始12ヵ月時点(親試験:APOLLO試験開始30ヵ月時点)におけるmNIS+7スコアのAPOLLO試験ベースラインに対する平均変化量は、APOLLO-オンパットロ群(APOLLO試験から継続してオンパットロを投与)で−4.0(95%CI:−7.7、−0.3)であったのに対して、APOLLO-プラセボ群(APOLLO試験でプラセボ、グローバルOLE試験でオンパットロ投与)では、APOLLO試験でみられたスコアの上昇は抑えられたものの+24.0(95%CI:15.4、32.5)と高いままであり、APOLLO-オンパットロ群との差は解消されませんでした(図2)。
これまでのATTRvアミロイドーシス診療における治療目標は、疾患の進行を抑えることが中心でした。しかし、こうしたオンパットロの臨床効果からも、早期診断・早期治療介入を行うことができれば、さらにその上のゴールを目指せる時代になったといえます。
早期診断という点においては、ATTRvアミロイドーシスで予後悪化に関与するATTR心アミロイドーシスを早期に診断することが極めて重要です。それでは次に、心アミロイドーシスの診断について、画像検査の有用性を中心に議論したいと思います。
心アミロイドーシス診療における心エコー検査の位置づけ
南澤心エコーは、心臓の形態や機能を非侵襲的に繰り返し評価できる画像検査です。日本循環器学会が発表した「2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン」では、心アミロイドーシスに対する心エコー検査はすべての撮像法がクラスⅠ(手技・治療が有効・有用であるというエビデンスがあるか、あるいは見解が広く一致している)で推奨されています7。一方、米国核医学学会や米国心不全学会では、ATTR心アミロイドーシスを検出するための心エコー検査所見として、①左室壁厚>12mm、②apical sparing(中・基部のLSに対する心尖部のLSの比>1)、③拡張機能障害≧Grade2が有用であるとされています8。
田原心エコー検査は心アミロイドーシスの早期診断においてどのような位置づけになりますか。
遠藤早期診断という観点では、心エコー検査だけに頼ると心アミロイドーシスを見逃すケースが出てくると思います。しかし心エコー検査は、MRI検査や核医学検査に比べて実施しやすいことから、診断に向けて行う“入口の検査”という位置づけになると思います。そして、左室肥大や拡張障害がみられたときに、心アミロイドーシスを疑えるか否かが診断に進む大きなターニングポイントとなり、疑いがあるときに専門施設に紹介していただくことができれば、早期診断につながると考えています。
一方で、私は、アミロイド線維の蓄積量を正確に把握できるモダリティが必要ではないかと考えています。心エコー検査では、apical sparingや壁厚の評価がそれに相当するのかもしれませんが、汎用性や再現性という点では、細胞外容積分画(extracellular volume fraction:ECV)やアミロイドPETなどでアミロイド線維の蓄積量を定量化できるモダリティの方が有用かもしれません。
田原治療効果指標としての心エコー検査の有用性はいかがでしょうか。実臨床では、心エコー検査で経過観察していても大きな変化を捉えにくい印象です。また、apical sparingなどのストレイン解析を行える施設も限られていると思います。治療効果の指標としては、より汎用性の高い血液バイオマーカーの活用が必要と考えます。
南澤その通りだと思います。実臨床において治療効果を評価するためには、汎用性と再現性が必要であり、その点、心エコー検査は検者内・間の測定誤差を考慮すると十分ではない印象です。私は血清中NT-proBNPが汎用性、再現性ともに高く、治療効果や病勢の評価指標に有用と考えています。
尾田私も、血清中のBNPや高感度心筋トロポニンT(cTnT)を臨床パラメータとして参考にしています。心アミロイドーシスでは、治療効果や病勢の評価に有用なパラメータを見出して、単一ではなく、マルチパラメータで総合的に評価することが大切ではないでしょうか。
田原それでは尾田先生、マルチパラメータの一つとして期待されている心臓MRI検査の心アミロイドーシス診療における有用性についてご紹介ください。
心アミロイドーシス診療における心臓MRI検査の有用性
尾田まず、心アミロイドーシスを診断するためには、心臓(心肥大、HFpEF、拡張障害など)だけでなく心臓外(両側手根管症候群、多発ニューロパチー、自律神経障害など)の症状・所見から、“疑うこと”が最も重要です。熊本大学では、こうしたレッドフラッグが認められた場合は、まずALアミロイドーシスのスクリーニングを行った上で、心臓MRIやピロリン酸シンチグラフィによる画像診断を行っています。心臓MRI検査でみられる心アミロイドーシスの典型的な所見は、①左室内膜下優位のびまん性遅延造影、②心腔内の低信号化(dark blood pool)、③Native T1とECVの異常高値が挙げられます。一方、ピロリン酸シンチグラフィでは、3時間後撮影画像で視覚的評価によるGrade2(肋骨と同等の心臓への中等度集積)またはGrade3(肋骨よりも強い心臓への高度集積)を認める場合、また、定量的評価として、1時間後撮影画像でH/CL(heart-to-contralateral)比>1.5、3時間後撮影画像でH/CL比>1.3であった場合が心アミロイドーシスに典型的な所見です。こうした所見がみられた場合は組織生検へ進み、その後、アミロイド沈着の証明やタイプ診断(免疫染色)を行い、ATTRアミロイドーシスであった場合は遺伝学的検査でTTR遺伝子変異の有無を確認して確定診断しています。すなわち、心臓MRIやピロリン酸シンチグラフィによる画像診断は組織生検実施のゲートキーパーであるといえます。
田原心臓MRIやピロリン酸シンチグラフィが組織生検実施のゲートキーパーになることは同感です。特に、心臓MRIのT1 mappingによる画像診断は注目されていますね。
尾田はい。T1 mappingには、造影剤を使用しないNative T1と造影剤を使用するECVの2つの指標があります。Native T1は細胞内・外の情報を包括しているのに対して、ECVは細胞外腔の広がりを反映しています。Native T1は装置や心拍数などの影響を受けやすいため、各施設で基準値を設定 する必要があり、施設間や装置間での比較には適しません。一方、ECVは造影前後のT1値から算出します。基準値(23~28%)が決まっているので、施設間や装置間の比較もでき、汎用性が高いといえます。T1 mappingが登場したことで、心アミロイドーシスの診断精度は格段に向上しました。
田原心アミロイドーシス診断におけるT1 mappingの有用性について教えてください。
尾田心アミロイドーシスではNative T1、ECVともに著明な異常高値を示します(図3)。そのため、形態的に類似する肥大型心筋症や高血圧性心筋症、大動脈弁狭窄症との鑑別に有用です。また、Native T1、ECVは心アミロイドーシスの高い診断能を有することや、ATTRアミロイドーシスにおいて、ECV高値(≧59%)の場合は相対的低値(<59%)の場合と比べて予後不良になること9なども報告されており、T1 mappingは、心筋ダメージを定量的に評価できるため、早期病変の検出や予後の評価、治療効果指標などへの応用が期待されています。
田原実臨床において、治療効果指標としてT1 mappingを活用されている具体的な事例をご紹介いただけますか。
尾田オンパットロで治療中のトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー患者(42歳、女性)において、ECVの経時的な変化を検討しました。その結果、ECVはオンパットロ導入2年前で72%、導入時ではわずかに上昇して75%でしたが、オンパットロ導入後約1年で73%になりました。ただし、ECVが70%台というのは病勢がかなり進行したケースなので、ECVが40%前後でアミロイド線維の沈着が軽度の患者でどのように変化するのか、興味深いと考えています。
南澤ECVとBNPやcTnTの相関についてはいかがでしょうか。
尾田私たちは、Native T1とECVがBNPやE/e’、心室中隔の壁厚などの心アミロイドーシスのパラメータと相関することを報告しています10。したがって、T1 mappingは病勢や重症度の指標にもなり得ると考えています。
遠藤ECVをどのように標準化していくのが望ましいとお考えですか。
尾田ECVは標準的な撮り方をしていれば、一般的には施設間や装置間での誤差は少ないといわれていますが、測定部位によって結果が変わることがあります。心室中隔の中層側で測定するのが標準ですが、あまり周知されていないのが現状です。今後は測定部位や測定方法について啓発していくことも必要だと考えています。一方で、循環器領域で使用頻度が高いのはCTだと思います。近年、CTでも心臓MRIと同様に遅延造影やECVの情報を得ることが可能になりつつあり11、私たちの施設では積極的に検討を進めています。将来的には心アミロイドーシスの診断にCT遅延造影やCT-ECVが活用されることを期待しています。
ATTRvアミロイドーシスに対するオンパットロの臨床効果と今後への期待
田原それでは次に、ATTRvアミロイドーシスに対するオンパットロの臨床効果について議論したいと思います。遠藤先生から自験例をご紹介いただきます。
遠藤当科の外来では、2年前まではATTRvアミロイドーシス患者はほとんどいませんでした。しかし、2021年3月時点では、10例のATTRvアミロイドーシス患者(3例:V30M変異型、7例:非V30M変異型)を診療しています。その中から1例の概要をご紹介します。
85歳の女性、労作時呼吸苦を主訴として当科を紹介受診された症例です。この症例は、6年前に他院で、冠動脈狭窄に対するカテーテル治療を受けた後、直近の心エコー検査で左室肥大とピロリン酸シンチグラフィで心筋への集積像(Grade3)が確認されていました。当科で精査したところ、BNPは575.5pg/mLでやや高値、心エコー検査では収縮能は保持されていたものの強い拡張障害を認めました。これらの所見から野生型のATTRアミロイドーシスの可能性が高いという印象をもっていましたが、遺伝学的検査を行うとTTR遺伝子変異(V30M)が同定され、ATTRvアミロイドーシスと診断されました。このような高齢患者の中にもATTRvアミロイドーシスが潜在していることを象徴する例であり、ATTRアミロイドーシス診療における遺伝学的検査の重要性を再認識することができました。
この症例は治療選択肢を提示した上でオンパットロによる治療を開始しました。現在約4ヵ月が経過しましたが、治療開始前に問診票を用いて聞き取った患者の自覚症状は、運動感覚神経症状や心症状が目立っていました(表2)。オンパットロによる治療でこれらの症状がどのように変化していくのか経過を追跡していく予定です。
田原ATTRアミロイドーシスでは、遺伝性と野生型で治療法が異なります。日本循環器学会から提言されているように、ATTRアミロイドーシスであることがわかった場合は、遺伝学的検査を行って確定診断した上で治療方針を検討することが重要です。
一方で、患者ご本人や親族を含めた遺伝カウンセリングはどのようにされていますか。
遠藤当院では臨床遺伝学センター外来があり、遺伝カウンセラーを含む診療チームで支援を行っています。発症前診断については、必ずメリット、デメリットをご説明の上、進めています。また、オンパットロのように早期治療介入することでベースラインからの改善が期待できる薬剤があるという情報をふまえてお話しすることが重要と考えています。
尾田今回ご提示いただいた症例を含め、病勢がある程度進行してから診断されるケースが多いと思うのですが、心症状や左室肥大が進行しないうちに早期発見するためのポイントはどのようなことが考えられるでしょうか。
遠藤ご紹介した症例は、当科受診の3年前に下肢の脱力感を訴えておられました。神経症状で疑わしい患者がいたらすぐに循環器内科に相談していただき、ピロリン酸シンチグラフィなどの画像検査で心病変をできるだけ早く検出することが大切だと思います。
田原冒頭にご説明したATTRvアミロイドーシスの治療ゴールを達成するためには、早期診断が重要です。それと同時に、低栄養/筋力低下と心不全の“負のスパイラル”を断つために、心臓リハビリテーションや栄養療法などの包括的治療が必要になります。南澤先生、こうした包括的治療にオンパットロが寄与できる可能性はありますか。
南澤田原先生からご紹介いただいたように、オンパットロは握力や10m歩行速度(10-MWT)、mBMIの悪化をプラセボに比べて抑制することが国際共同第Ⅲ相試験(APOLLO試験)で確認されています(表1)1-5。特に、身体機能・筋力の指標となる握力のベースラインからの変化量(最小二乗平均±SE)が、プラセボ群では−7.6±0.89kgであったのに対して、オンパットロ群では−0.4±0.62kgであり、群間差が約7kgであったことは注目すべき結果だと思います。
一方、心不全患者(Stage A/B)でのデータになりますが、私たちは、血清アルブミンとBMIから算出される栄養指標であるGNRI(Geriatric Nutritional Risk Index)と主要心血管イベント(MACE;心不全による入院と心血管死を含む)の関係を検討したところ、4.7年(中央値)の経過観察において、高GNRI(≧107.1)に比べて低GNRI(<107.1)でMACEの発現率が高かった(12.4% vs. 20.2%)ことを報告しています(図4)12。したがって、心不全症状を伴うATTRvアミロイドーシス患者でも、栄養状態を維持できれば予後の改善につながる可能性があります。
以上のことから、オンパットロはATTRvアミロイドーシスに対する包括的な治療にも貢献し、治療ゴールの達成に寄与できる薬剤であることが示唆されます。
田原オンパットロが登場したことで、ATTRvアミロイドーシスに対して、これまでよりも高い治療ゴールを目指せる可能性を改めて実感しました。早期に診断し、画像診断やバイオマーカーを用いて全身的な病勢評価を行いながらオンパットロをはじめとした包括的な治療を継続することで、1人でも多くのATTRvアミロイドーシス患者にその恩恵が享受されることを期待します。本日はありがとうございました。
内容および医師の所属・肩書等は2021年5月記事作成当時のものです。